第10回 脳型人工知能とその応用ミニワークショップ

日時:2019年7月22日(月) 14:00-16:50

14:00-14:10 ATR 脳情報通信総合研究所 DBI室 室長 川鍋  一晃

14:10-15:10  国立精神・神経医療研究センター  神経研究所  疾病研究第七部 室長  山下  祐一 先生

15:10-15:40  休憩

15:40-16:40    玉川大学   脳科学研究所   教授 鮫島  和行 先生

16:40-16:50 ATR 脳情報通信総合研究所 BRI室 主幹 内部  英治

 


14:10-15:10 国立精神・神経医療研究センター  神経研究所  疾病研究第七部 室長  山下  祐一 先生

タイトル:計算論的精神医学:脳の計算理論による精神障害の病態理解

概要:現行の精神障害の診断分類は、患者自身の主観的報告と医師による行動観察に基 づいており、生物学的知見・病因・病態生理に基づいた体系になっていない。また、近年の生物学的知見の蓄積によっても、診断、重症度評価、予後や治療反応 性予測が可能な生物学的指標が確立されていないという問題を抱えている。精神医学が直面するこれらの問題克服に、脳の計算理論を用いた手法(計算論的精神 医学)が有効な研究方略を提供することが期待されている。本講演では、計算論 的精神医学の2つの代表的な研究方略として、(1)仮説の定量的検証を主な目的と したモデルフィッティング・計算論的表現型同定、(2)新たな仮説の提案に主 眼を置いた仮説形成的アプローチを概観し、演者自身の研究を含めた具体的適用 事例のいくつかを紹介する。

 

15:40-16:40 玉川大学   脳科学研究所   教授 鮫島  和行 先生

タイトル:線条体の情報表現と、強化学習における表現学習

概要:中脳ドーパミン細胞がTD誤差と似た信号であることが報告されてから、大脳基底核の神経回路が強化学習アルゴリズムを実装するのではないか、という仮説が支持されてきた。線条体の単一神経細胞活動では、刺激から報酬を予測する状態価値,行動選択肢毎の行動価値,時間やコストに対する割引価値など、強化学習アルゴリズムに関係する情報表現との相関が見つかっている。ヒトのイメージング研究でも、報酬予測や予測誤差と脳活動の相関が大脳基底核で多数報告されてきた。しかし、これらの実験では、刺激の種類や行動選択肢の制限を行い、その制限を仮定とした関数との相関を見つけているに過ぎない。実際の意思決定場面において、脳が価値関数の独立変数となる状態や行動をどのように構成するのかは、わかっていない。強化学習の表現学習の問題を脳はどのように解いているのだろうか。本講演では、多数の刺激次元から報酬予測に関連する情報が切り替わる課題を用いて、線条体の単一神経細胞の情報表現にせまる電気生理学実験の結果について報告し、上記の問題を大脳皮質―大脳基底核の神経回路がどのように学習し、意思決定を行っているのかについての仮説について議論したい。