第2回 脳型人工知能とその応用ミニワークショップ

日時:2017年4月13日(木) 13:50-18:00

13:50-14:00  ATR 脳情報通信総合研究所 認知機構研究所 副所長 石井 信

14:00-15:00     大阪大学 産業科学研究所 准教授 河原 吉伸 先生

15:00-16:00      ATR 脳情報通信総合研究所 CBI室 主幹 山下 宙人

16:00-17:00     京都大学大学院 情報学研究科 助教 藤原 幸一 先生

17:00-18:00     ATR 脳情報通信総合研究所 BRI室 主幹 内部 英治

 


14:00-15:00       大阪大学 産業科学研究所 准教授 河原 吉伸 先生

タイトル: クープマン作用素のスペクトル学習による潜在的ダイナミクスの抽出 〜 正定値カーネルを用いたアプローチと最近の話題〜

概要: 非線形ダイナミクスの解析は,多くの工学・応用科学分野における主要な研究対象の一つである.近年これに関連して,当初Rowleyらにより流体力学分野で提案された,動的モード分解と呼ばれる,計測データを用いた非線形システムの解析手法が注目されている.動的モード分解は,クープマン作用素と呼ばれるシステムの観測関数上で定義される線形作用素のスペクトルを用いて,互いに干渉しないモードによるシステムの表現を推定する.本講演では,動的モード分解について概説するとともに,いくつかの拡張的定式化について紹介する.特に,最近我々が取り組んでいる,正定値カーネルにより得られる再生核ヒルベルト空間上での動的モード分解による方法や,ベイズ的なカーネル学習による基底関数自体の推定を含むアプローチについて紹介する.また,これらの定性的性質や関連する研究の現状をふまえて,脳情報処理などへの適用に必要と思われる課題など,今後の展望を交えて述べる.

 

15:00-16:00       ATR 脳情報通信総合研究所 CBI室 主幹 山下 宙人

タイトル:複数データ統合によるヒト脳ダイナミクスに迫る方法

神経科学の目的の1つは、脳で行われるさまざまな情報処理を神経細胞ネットワークがどのように実現しているかを解明することにある。動物を対象とした研究では、電気生理的手法、光イメージング法や光遺伝工学的方法を用いて、神経細胞1つ1つの活動を観測・操作する研究が進められている一方で、ヒトを対象にした研究では、非侵襲的なイメージング手法を用いて数万個以上のニューロン集団活動を対象に、単純な知覚から複雑な認知に至るまで様々な脳機能が”どこ”で”どのように”実行されているかを解明する研究が行われている。

ヒト脳イメージング研究では、1990年以降、機能的核磁気共鳴断層画像法(fMRI)の開発によって脳全体の脳活動変化を同時に計測できるようになり、脳部位と機能を対応付けるブレインマッピング研究、脳を静的なネットワークとしてモデル化するconnectome研究が急速に進んだ。しかし、脳の静的な側面をとらえるマッピング・connectome研究だけでは脳機能の解明には不十分であり、動的な情報伝達様式を解明する脳ネットワークダイナミクス研究の必要性が指摘されている。しかし、現在のヒト脳活動計測技術では、脳ネットワークダイナミクス研究に十分な時間・空間分解能を満たす方法が存在せず、研究の進展を妨げる大きな要因となっている。

ATR脳情報解析研究所では、複数の脳計測データをソフトウェア的に統合することによって、1つの脳計測の限界を超えるための研究を10年以上に渡って行ってきた。2004年に、佐藤らが時間分解能優れた脳磁図データと空間情報に優れたfMRIデータを階層ベイズモデルによって統合する方法を提案した。近年、佐藤らの方法を拡張し、拡散MRIデータから計算した脳ネットワークの配線情報を制約として取り込むことによって、脳ネットワークダイナミクスの情報伝達を実験データから推定する方法に発展させた。提案するネットワークダイナミクス推定法は、数学的にはダイナミクスに関わる未知のパラメータを持つ状態空間モデルとして定式化される。この状態空間モデルは、脳ネットワークダイナミクスを記述するシステム方程式、脳活動から計測データへの計測過程を記述する観測方程式、さらに情報伝達パラメータの事前情報を記述する事前分布の3つの要素から構成される。脳ネットワークダイナミクス推定の問題では、状態数が1000次元以上・パラメータ数百万以上と膨大な次元になるため、モデル自由度を制約するモデル化の工夫・計算量を減らすためのアルゴリズムの工夫が必要であった。本講演では、ヒト脳イメージング研究を概観した後、我々が提案する複数データ統合による脳ネットワークダイナミクスの可視化法について紹介し、今後の研究の展望を述べる。

 

16:00-17:00       京都大学大学院 情報学研究科 助教 藤原 幸一 先生

タイトル:リアルタイム心拍変動解析技術を用いたヘルスモニタ −てんかん発作予知を例に

概要:心拍変動(HRV)は自律神経活動と関係のある生体現象として知られている.自律神経系は循環,呼吸,消化,発汗・体温調節や代謝などを制御するものであるから,多くの疾患が自律神経活動と関係しているため,HRVを監視することで様々な疾患,発作のスクリーニングできると考えられる.そこで,これまでに我々はウェアラブルセンサにより測定された心拍データより,HRVをリアルタイムに計算できるスマートフォンアプリを開発し,てんかん発作の予知や睡眠時無呼吸症候群(SAS)のスクリーニングに活用してきた.本講演では,リアルタイムHRV解析技術と,そのてんかん発作予知への応用について紹介する.また,併せててんかん脳波解析についても紹介する.

 

17:00-18:00       ATR 脳情報通信総合研究所 BRI室 主幹 内部 英治

タイトル:深層順・逆強化学習

グーグルディープマインド社の提案した深層強化学習は人間と同程度にビデオゲームをプレイし、囲碁のエキスパートに勝利するなど非常に高度な制御則を自律的に学習できることを示した。しかし従来の深層強化学習は学習過程を安定化させるために様々な保守的な技術を導入しており、そのため学習に要するデータ数、更新回数が膨大になり、そのことが実際の問題に適用する際のネックとなっていた。そこで本講演の前半では深層強化学習を高速化するための我々の取り組みについて紹介する。一つは非単調増加な活性度関数Sigmoid-weighted Linear (SiL)ユニットについて紹介する。これは深層学習のブームのきっかけとなった制限ボルツマンマシンを用いた強化学習の理論から導出されたもので、よく用いられる線形正規化関数をupper boundとする関数である。SiLを用いた深層強化学習によって学習効率が大幅に改善できることを示す。

後半では提示された状態系列から報酬を推定する逆強化学習と深層学習を統合する方法について述べる。まず報酬関数をKL divergenceによって制限することで、最適な状態遷移に対して成り立つ最適性方程式が、学習前後の状態遷移確率密度の比の対数と報酬関数の一部と状態価値関数の差分で表現されることを示す。これより逆強化学習問題は学習前の状態遷移と学習後の状態遷移を分類する二値分類問題として定式化でき、これはロジスティック回帰によって効率よく解くことができる。ロジスティック回帰は深層学習で広く研究されているため、逆強化学習と深層学習を自然な形で統合できる。これにより従来の深層逆強化学習よりも少ない計算量で適切な報酬関数を推定しつつ、推定された報酬関数をもとに順強化学習が高速に実現できることを示す。