脳の視覚系の計算理論と人工知能
霊長類の視覚系は驚くべき能力を持っています。それはどのような計算原理で実現されているのでしょうか?また、そこから発想して、どのような人工知能が作れるでしょうか?私たちは、これらの疑問を、ベイズ統計学習や、深層学習などの現代的な機械学習理論を用いながら、探究する研究を進めています。
研究テーマ
1、脳の視覚系の計算モデル
脳の視覚系の計算原理を、理論サイドから探求しています。特に、視覚系の入り口である一次視覚野(V1)の解明に比べて、それ以降のステージである中間視覚野から高次視覚野には、まだまだ謎が多いのです。視覚計算の数理モデルを、学習理論的な観点から立て、物体や顔などの視覚特徴表現の学習や、フィードバック計算による文脈依存的な視覚処理など、高次の視覚認知処理を説明していきます。これまでの主な研究成果は以下のようなものがあります。
• 視覚系の第二ステージとされる二次視覚野(V2)には、一次視覚野にはない様々な神経応答特性が知られていました。私たちは、それらを統一的に説明できる新しい理論として「階層的スパース符号化モデル」を発表しました[1,2]。
• 視覚系の最後のステージである高次視覚野では、顔の入力に特によく反応するニューロン群からなる「顔認識ネットワーク」があります。その計算方式を探るため、「混合スパース符号化モデル」を提案し、マカクザルの顔領野に関する実験事実を説明することに成功しました [3] (図A)。
• 人工知能分野で有名な畳み込みニューラルネットは、近年の視覚系の計算論でも取り上げられることも多いです。しかし、このアプローチでは顔認識ネットワークの特性をすべては説明できないことを示しました [4](図B)。
現在、これらの理論から出た仮説を、実験的に検証する研究プロジェクトを、神経生理学の専門家たちと共同で進めています。
[1] Hosoya H, Hyvärinen A. A Hierarchical Statistical Model of Natural Images Explains Tuning Properties in V2. Journal of Neuroscience. 2015;35:10412–28.
[2] Haruo Hosoya, Aapo Hyvärinen. Learning Visual Spatial Pooling by Strong PCA Dimension Reduction. Neural Computation, 82:1-16, 2016.
[3] Haruo Hosoya, Aapo Hyvärinen. A mixture of sparse coding models explaining properties of face neurons related to holistic and parts-based processing. PLoS Computational Biology, 13(7): e1005667, 2017.
[4] Raman, R., Hosoya, H. Convolutional neural networks explain tuning properties of anterior, but not middle, face-processing areas in macaque inferotemporal cortex. Communications Biology, volume 3, Article number: 221 (2020).
2、脳の視覚系から着想した人工知能
神経生理学から明らかになっている視覚系の特性からヒントを得て、新しい人工知能モデルを開発しています。特に、高次視覚野には、恒常性やカテゴリ分化など興味深い性質があり、おそらく脳にとってもこのような表現方式をとる理由があるはずですが、現在の人工知能技術には必ずしも生かされていません。そこで、深層生成学習などの最新の技術と、脳の知見を組み合わせた新しいモデルを考案し、どのような性能向上や、情報処理システムの革新が図れるのかを探ります。
[1] Hosoya, H. Group-based learning of disentangled representations with generalizability for novel contents. The International Joint Conference on Artificial Intelligence (IJCAI) , Aug, 2019.
メンバーと共同研究者
• 細谷 晴夫
• Rajani Raman (KU Leuven)
• Aapo Hyvärinen (U Helsinki)
• Winrich Freiwald (Rockefeller U)