脳を活かす研究会の準備状況についてご説明させていただきます。
「脳を活かす」というタイトルで「脳を読む」、「脳を繋ぐ」、「脳と社会」という3つを研究分野の軸に考えております。
まず、「脳を読む」というのは、人間の精神社会活動を生物学的基盤から理解し応用するというものです。この分野で行なわれている研究として、人間の脳の遺伝子情報を利用して脳疾患の要因遺伝子の特定などを行なうニューロゲノミクス
(neurogenomics)や、人の経済的行動や社会的行動を生み出す脳のプロセスを探ることにより新しい経済理論の確立を目指すニューロエコノミクス
(neuroeconomics)、脳活動から消費者の嗜好を探るニューロマーケティング(neuromarketing)などが盛んに研究されています。
次に、「脳を繋ぐ」というのは、全く新しいコミュニケーション技術を目指す分野であり、脳とロボットを繋ぐ、または脳と情報機器を直接繋ぐというブレイン・ネットワーク・インターフェース(BNI)もしくはブレイン・マシン・インターフェース(BMI)といったものがあります。
これらの脳科学が発展するに従って、プライバシーの侵害や脳内情報の濫用などの倫理的な問題が生じ、それらを解決することが緊急課題となります。脳科学の応用を倫理から考え、さらには宗教、哲学、倫理の補填として逆に脳科学から倫理を考えるという神経倫理学(neuroethics)を議論し、質の高い脳科学を社会に発信していくのが「脳と社会」分野です。
このように、いろんな意味で脳科学と社会の接点は大きくなっています。しかし、期待されている脳科学の正しい情報を企業や一般の方々に流通できているかというと、必ずしもそうでないのがこれまでの現状です。
これからは広く、議論をオープンにやっていき、社会に正確で信頼される脳情報を発信させるにはどうしたらいいか、情報技術の専門家とともに協力していきたいと考えています。
発起人は主に大学や研究機関の神経科学、医学、工学などの分野から構成されていますが、脳を活かす研究会の会員や研究会参加者は、企業の方が非常に多くなっています(参考リンク
http://www.cns.atr.jp/nou-ikasu/ratio.html)。これは企業の多くの方も興味を持っており、狭い意味で脳科学者の組織に閉じているわけではないということです。
この研究会の目的としましては、
- 共同研究の場を提供し、社会と脳研究との接点を広げる
- 神経倫理について透明性がある議論を行なう
- 報告書による提言
- 異分野、多機関、多省庁の融合
- 広い意味での脳科学振興の環境作りのための応援団
ということを考えております(参考リンクhttp://www.cns.atr.jp/nou-ikasu/purpose.html)。
そして、活動内容については、
- 研究会や講演会を開催し、様々な分野(一般、企業、マスコミ、研究者)での情報交換を促す
- ウェブページや報告書を通じて透明かつ公平な情報発信、
- 予算獲得のサポート
としています。今後、伊佐正先生(自然科学研究機構 生理学研究所)を委員長とする計画委員会を中心に研究会の計画を行なっていく予定です(参考リンク
http://www.cns.atr.jp/nou-ikasu/proposer.html)。
脳を活かす会にこれだけたくさんの方が興味を持って頂いたということは脳科学にとって追い風であると思われます。しかし、現在の脳科学分野における予算は百数十億で、アメリカ合衆国の予算と比較してあまりに少なく、十分ではないと思っております。
今日のライフサイエンスの戦略重点技術は臨床や癌などの病気を治すことに重点を置いていますが、他の病気と比較して経済的損失が大きいとされる脳に関する病気の治療や、健康な人が心と体の関係をより良く保つ、つまり、よりよく生きる倫理をどこから考えるかといった時に、脳科学は非常に大きな役割を果たしていくと思われます。
このようにライフサイエンスの中でも脳科学は特別な地位を占めており、私たちの心の問題、意識の問題に直接言及できるのは脳科学をもって他に無いと考えております。これから、いろんな意味で脳科学に対する支持を一般の人から得られることができれば、と思っています。
どうもありがとうございました。
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