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パネル討論「BMIの脳科学と社会へのインパクト」

2006年4月5日

討論者紹介 (右から,敬称略)

司会:
外山敬介

パネリスト:
川人 光男 (ATR脳情報研究所)
小泉 英明 (日立製作所)
天外 伺朗 (土井利忠)(ソニー・インテリジェンス・ダイナミクス研究所(株))
丹治 順 (玉川大学)
不二門 尚 (大阪大学医学部)
池田 千絵子 (文部科学省 研究振興局ライフサイエンス課 先端医科学研究企画官)
山内 智生 (総務省 情報通信政策局 技術政策課企画官)
土屋 博史 (経済産業省 製造産業局産業機械課 課長補佐)
武井 貞治 (厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部 企画課 課長補佐)
甘利 俊一 (理化学研究所)

 
外山:
この討論会は「ブレイン・マシーン・インターフェース(BMI)に何ができるか」、そして「BMIに何を期待するか」をテーマに、まずは10人のパネリストの方々から順番にお話を伺っていきたいと思っています。まず初めに、脳を活かす研究会のいわば仕掛け人であるATR脳情報研究所の川人光男さんにお話を伺いたいと思います。
川人:
BMIを使った操作脳科学ということで、脳科学における基礎と応用の循環についてお話させていただきたいと思います。
近年色々なスタイルのBMIが開発されてきています。実は脳の働きの解明というのは、運動野の仕組み1つとってもまだ決着のついていない段階にいるわけなのですが、そういうことがわかっていなくても、脳を使った応用ができる、というのが大事な部分なんじゃないかと私は考えています。
さて、BMIは応用だけでなく、制御脳科学という新しい流れを作る可能性があります。BMIを使えば、被験者の脳から情報を読み出してきて、それを元に被験者に感覚的な刺激を与えてやって脳活動を操作するという、まったく新しい科学の手法を作ることができます。つまり、基礎があって応用がそれを追いかける、という簡単な図式だけでなく、応用があることで基礎そのものが変質してくるという面白い時代が来ているということです。
外山:
さて、産学連携というのは、脳を活かす研究会の主要なテーマになっております。産の代表として、日立基礎研究所の小泉先生からお話を頂きたいと思います。
小泉:
今回は脳科学の理解と応用をどう社会に広めていくかについてお話したいと思います。
私どもは近赤外線分光法(NIRS)を使いまして、筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者さんとのコミュニケーションを図る、というのをやってまいりました。ALSの患者さんは筋肉が使えないので、外部とコミュニケーションを取ることができませんが、ご子息が呼びかけたときであるとか、腕を動かす想像をしたときなどは脳活動が現れるので、ちゃんと意思の疎通を取ることができます。私どもはこの方法で2年間家族とコミュニケーションが取れなかった患者さんとの対話に成功しました。
こういうことをやっている間に、倫理という問題がとても大事ではないかと考えるに至りました。今ご紹介した研究は、ある意味では患者さんの心を読んでいるわけですから。さて、脳科学と倫理の間には2つの課題があると思います。1つは「脳科学自体の倫理の探求する」。もう1つは「脳科学によって倫理自体の根源を探求する」ということです。現在国内外で脳と倫理についての様々な試みがなされています。
外山:
もう1人産からの代表ということで、AIBOの生みの親でもあるソニー・インテリジェンス・ダイナミクス研究所の天外(土井)さんからお話を頂きたいと思います。
天外:
インテリジェンス・ダイナミクスについてお話させていただきます。これは今回のパネルディスカッションの目的であるBMIとはちょっと違う分野ですが、脳科学の1つの大きな目的のとして、知能の探求と、そこで得られた知識を使って知能を持ったマシンを作ることを目指す分野です。例えば人工物が外界との相互作用からどのようにダイナミックな知能を獲得するのか、そういうことを考えています。そうして得られた知見は、脳科学にも有効な示唆を与えることができるでしょう。この分野も忘れないようにぜひこの研究会で取り上げていただきたいと思っています。
外山:
次にBMIに何を期待するかについて、神経科学の立場から、統合脳の代表である玉川大学の丹治先生にお話を伺いたいと思います。
丹治:
統合脳は、それぞれ違うレベルの研究同士の有機的な結合を目的とする組織であり、分子から細胞、高次システムから病態の仕組みを調べる研究が互いに連携を取って、全体としてどのような働きになっているかを理解することを目指しています。
脳科学で得られた情報をどうやって使うか、という新しい視点を模索するこの研究会は、新しい発想を生み出す源泉としてとても期待を持っています。また一般の人には脳科学はとても役に立つということをもっと知ってもらって、大いに使ってもらえるようになればと考えています。少子高齢化や難病などの社会問題の解決に脳科学が活かされる時代が来ていると思います。
外山:
さて、もうお一方、臨床医学の立場から、大阪大学の不二門先生にお話を伺いたいと思います。
不二門:
プロジェクトの1つとして、我々は人工網膜をやっています。網膜が変性して目が見えなくなってしまった場合でも、視神経が生きていれば人工網膜で視覚をある程度回復させることができます。人工内耳というのはすごく成功しているのですが、視覚はそれよりも情報が多いので、なかなか苦労しています。現在2010年までに指の数が見てわかるくらいの精度のものを作ろうとしています。
私が考える今後のBMIの臨床応用としては、人工網膜などによる感覚代行、生活支援ロボットによる運動支援、また神経系の電気刺激による脳機能回復などが挙げられると思います。
外山:
官学連携の話に戻って、今度は各省庁の代表の方々からお話を聞いていきたいと思います。最初に、文部科学省のライフサイエンス課の池田さんにお願いしたいと思います。
池田:
私は4月1日付け(注:研究会は4月4,5日に開催された)で現在の部署に配属になったばかりなのですが、一般の人に近い立場から、今回の研究会についての感想を述べさせていただきます。
私がこの分野に来てライフサイエンスの予算を見た感想は、羨ましいな、ということでした。一般の人の感覚では多いと感じるということだと思います。つまり、投資に見合った成果が上がっているのかどうか、一般の方々にうまく伝えることができていないのではないしょうか。「今までこんなことをしてきて、こんな成果が上がっていて、だからこんなことをすればもっと成果が上がって世間に還元できる」という具体的な努力のマップをしっかりと一般に向けて発信して欲しいと思います。
外山:
大変重要なご指摘をいただきました。これからみんなで勉強して、今のご指摘に答えたいと思います。さて次は総務省技術政策課の山内さんにお話を伺いたいと思います。
山内:
私の課は、情報通信研究機構(NICT)という独立行政法人を所管しております。総務省は、情報通信関係の研究開発を推進していますが、その中でNICTは、将来の情報通信の実現に貢献するような研究開発を実施しています。ただ、最近の法人の見直しにおいて、業務の効率化を図り、国の予算により研究開発を行うことから、費用対効果を一層行うよう言われているところです。
NICTでは、脳情報関係の研究開発を行っていますが、その成果を情報通信に利用したい、という意識で実施しております。近い将来情報通信で実現可能な目標などを、研究者の方々から出していただけたらと考えております。
外山:
次に経済産業省から、産業機械課の土屋さんにお願いします。
土屋:
昨日今日の講演の中でもロボットについての話題が何度か出ましたが、そのロボット政策の立場から脳科学認知科学への期待について、お話いたします。
さて、生活や福祉の現場で実際に使われるロボットには、実際に役に立つか、かかるコストはそれに見合うか、安全かの3つの要素が重要になってくると思います。現在我々は、サービスロボットの市場創出を支援するために、安全性の確保と導入実績作りに重点を置いています。また柔軟物を掴めるロボットなど、高度なミッションを行えるロボットの実用化も支援していく予定です。
外山:
それでは次に厚生労働省の障害保健福祉部の武井さん、よろしくお願いいたします。
武井:
今までお話を伺っていて、厚生労働省の範疇でも医療、福祉、診断などいろいろな分野に応用できるのではないかと思いました。また様々な障害を持った方々の生活の質(Quality of Life, QOL)の改善にも役立つのではないでしょうか。
研究には資金が必要というのは重々承知しておりまして、私どももそうしたいと思っております。そのためには、最近叫ばれている、成果をしっかり出して欲しいという声に答えるために、日ごろから社会還元の意識を強くもって励んでいただけたらと思っておりますので、どうぞよろしくお願いします。
外山:
最後に、本会の代表である甘利先生に、これまでの9人の方々の熱い期待を受けて、よろしくお願いします。
甘利:
私みなさんの熱気に圧倒されておりまして、大変感激しております。「脳の世紀」活動から10年。脳を題材にした研究は広がりを見せてきました。「脳を活かす」活動は、様々な分野から集まった研究者たちの集会所になると同時に、官と学の接点にもなると思います。また研究を通しての社会貢献という知的文化活動を行うために、脳科学と社会の関わりを、いろいろな分野の人たちと議論するための場を作る、というのは今後の会の大きな目的になるでしょう。そのために頑張っていきたいと思います。

外山:
みなさまどうもありがとうございました。このあとの時間はフリーディスカッションにしたいと思います。

不二門:
BMIというと脳活動を読むというイメージがあるのですが、私が先ほど話したような、脳を電気刺激するというのも含まれるのでしょうか?

川人:
含まれます。情報機器と脳がつながっていて、役に立つものであればみなBMIといえます。例えば人工内耳はもっとも成功したBMIの1つです。

会場から:
私はサルの神経活動をサルに見せてやることで、サルが自分の脳活動を意図的に変えることができるか、という研究をしています。今まで基礎的な手法で脳を調べてきたのですが、BMI的な手法を使うことで、今まで見えてこなかったことが見えてくるようになりました。つまりBMIは基礎研究の裾野を広げるためにもとても有効な手段足りうる。そのことを1つコメントさせていただきます。

会場から:
天外さんに、人生体験の構造化を脳がどうやってやっているかについて、詳しくお聞かせ願えますか

天外:
我々はどちらかというと脳を作ってみるという立場でして、機械がどのように知識を構造化して汎化能力を持つか、その方法を研究しております。しかし今のところこれといった方法はありません。単純な方法だと構造化できないし、高級な方法を使うと計算量がとてつもなく多くなってしまう。よい方法論の出現をこれからの脳科学に期待しています。

会場から:
今後研究者には、研究にどのような効果を期待して、何に役立てるのかをしっかり議論して打ち出していって欲しい。特に老人の痴呆防止とキレる若者対策にしっかり力を入れて欲しい。こういったことについてどうお考えなのか、丹治先生と文部科学省の池田さんにお話を伺いたい。

丹治:
リハビリの目的はこれからの生活の質を上げることです。私も痴呆対策には国がもっと力を入れて欲しいと考えています。研究者の立場からいうと、これまでの低次機能の研究から、前頭葉などを対象にした高次機能の研究を充実させていくことが重要であると考えます。

池田:
私も今何を目指して研究しているのかをはっきり打ち出していくことが必要だと思う。実際そうしないと研究費が下りないように段々なってきています。研究者の方々は、長いスパンで大きな目標を打ち出すことに力を入れるべきだと思っています。

外山:
それではそろそろお時間ですので、パネルディスカッションを閉じさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

 

Last update: 2006.05.29

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