研究紹介

復号化したfMRI信号のニューロフィードバックによって刺激提示なしに知覚学習を起こす

脳科学では、脳活動を原因として結果として行動を引き起こす、因果関係の研究は従来行えませんでした。そこで、脳活動のデータから脳内の情報を解読し、それを短い時間遅れで脳に報酬として帰還し、結果として特定の空間的脳活動パターンを誘起する、DecNef(decoded fMRI neurofeedback)法を開発しました。このDecNef法を用いて、ヒトの大脳皮質初期視覚野に特定の空間的な活動パターンを引き起こして、特定の視覚刺激に対してだけ知覚能力が向上する、いわゆる視覚知覚学習を導きました。これは、脳活動パターンを原因として、知覚学習が結果としてえられたという意味で、因果関係を証明したことになります。従来は、ヒトやサルに知覚学習をしてもらい、その時の脳活動とニューロン活動をfMRIや刺入電極による単一ニューロン記録法で調べる研究がほとんどでした。このような研究は学習と脳活動の相関を調べているに過ぎないので、ある脳領域、あるニューロンの活動が学習の原因なのか結果なのかについては、いつまで経っても結論が出ません。今回のDecNef法を用いた研究によって、初期視覚野の空間活動パターンだけで知覚学習を起こし、十分条件を示したことで、この論争に決着がつきました。また、臨界期を過ぎると神経回路が固定されシナプス可塑性がなくなると考えられていた初期視覚野でさえ、大人でも十分なシナプス可塑性を保持し、それによって知覚能力が向上する、つまり知覚学習が可能なことを示しました。

図1: デコーディッドニューロフィードバック訓練で意識と視覚刺激なしに知覚学習がおきる。

被験者は固視点を見ており、その数秒後に緑の円盤の大きさで表される報酬情報を見る。報酬の大きさを、脳活動から解読された視覚刺激がある傾きを持つ確率にすることで、その特定の傾きの図形を弁別する能力が向上する。

図2: ニューロフィードバック訓練を行った方位についてだけ、弁別能力が有意に上昇する。

被験者の課題は、縞模様の3つの方位の弁別です。横軸にプロットしたある刺激の強さに対してどれだけ正答率が得られたかを、フィードバック訓練前(青色)と訓練後(赤色)で、縦軸に示しています。