BMI オープンイノベーションのための 脳活動マルチモーダル計測データの解析とその応用技術の研究開発
研究目標
本研究開発では、低侵襲・非侵襲 ブレインマシンインタフェース(BMI) を促進するために、新しい非侵襲脳計測技術の確立、皮質脳波と頭皮脳波を繋ぐ脳信号解析アルゴリズムの開発、そして脳情報解読アルゴリズムの高度化を行うことにより、 皮質脳波 BMI の臨床応用の基礎技術となり得る Ready to Use の非侵襲高パフォーマンス BMI の実現 を目指します。具体的には、以下の 研究開発項目を実施します。
- 【研究開発項目】キャップ型脳波 脳磁図同時計測法の研究開発
- 【研究開発項目】皮質脳活動推定法の研究開発
- 【研究開発項目】脳モデルと人工知能を用いたデータ生成技術
同時計測・脳活動推定法により、計測・解析の両段階において利用可能な脳情報量を増やします。脳モデルと人工知能技術を融合したデー タ生成技術により脳情報解読アルゴリズムを高度化します。これらの要素技術を組み合わせることにより、 Ready to use 非侵襲高パフォーマンス BMI の実現を目指します。
さらに、アルゴリズムを実装したソースコード・データを一般公開することにより、 BMI オープンイノベーションの先駆けとなります。
研究開発の成果概要
【研究開発項目】 キャップ型脳波-脳磁図同時計測法の研究開発
光ポンピング磁気センサ (Optically Pumped Magnetometer, OPM)(QuSpin社製) を利用した第2世代の脳磁場計測システムの開発に成功しました。ATR内の磁場シールド内で、15センサ30チャネル (1センサあたり2軸の磁場)の多チャネル脳磁場計測、脳波との同時計測、さらに計測データのリアルタイムストリーミング処理を実施することが出来ます。実験施設の様子は下記の「バーチャル・ラボ・ツアー」よりご覧いただけます。
開発物一覧
- ゼロ磁場を作成するための残留磁場キャンセリングコイル
- 安全性と安定測定・利便性を考慮した計測用キャップ
- センサ位置測定システム
- 脳波 (63チャネル、Brain product社製BrainAmp)とOPMセンサ(QuSpin社製)同時測定用キャップと計測システム
- Labostreaminglayerを用いて実装したOPMデータのリアルタイムストリーミング処理システム
開発成果物
リアルタイムシステムを用いた実験風景 (課題:運動想像)
【研究開発項目】 皮質脳活動推定法の研究開発
多チャネルOPMデータおよび、脳波と多チャネルOPM同時計測データをもとに、皮質脳活動(電流源)を推定するソフトウェアを開発しました。誰でもご利用いただけるように、MATLAB(Mathworks社)で実装したツールボックス VBMEG ver3.0を一般公開しています。また、VBMEGツールボックスに関連して、ツールボックスの紹介論文(Takeda et al. 2019)、fMRIメタ解析データベースを事前情報として用いる新しい皮質脳活動推定法の研究(Suzuki et al. 2021)、繰り返し現れる皮質脳活動パターンに関する研究 (Takeda et al. 2019, 2021) を発表しました。
脳波+OPM皮質脳活動推定の結果例 (課題:正中神経刺激)
【研究開発項目】 脳モデルと人工知能を用いたデータ生成技術の研究開発
解剖学的結合に制約された脳ネットワークダイナミクスモデルを用いたデータ生成技術を開発しました。3層ニューラルネットワークを用いた判別アルゴリズムと組み合わせることにより、脳情報解読精度が既存手法に比べて10%強向上することを示しました。
- 17名の視覚課題時のMEG/EEG同時計測データ2日分を用いて、脳情報解読の日間汎化性能を評価する解析デザインを構築し、ベースライン手法である脳波計測・線形サポートベクターマシンとデコーディング精度を比較した結果、精度が12.3%改善することを確認しました。また、パイロット実験として実施した1名の左右手運動想像課題時のOPM実験データに対しても同じ手法により10 %の精度向上を確認しています。
脳情報解読精度の比較
【研究開発項目】 BMIオープンイノベーションのためのデータとプログラム公開
オープンサイエンスを推進するために、当プロジェクトで計測した実験データおよびソフトウェアをウェブ上で一般公開しました。
- Datasets :OPM-MEG, SQUID-MEG, and EEG (OSE) dataset
- Software :VBMEG
オープンソース普及活動の一環として、皮質脳活動推定に関する研究会の主催や論文公開、宣伝・広報用動画プラットフォームの構築、ウェブサイトのコンテンツ充実、ソフトウェア導入が簡易に行えるツールの開発・リリースなどを行いました。外部機関との臨床共同研究成果がハイインパクトジャーナルに掲載される(Yangisawa et al. 2020, 2022)などオープンサイエンスの取り組みの成果を上げつつあります。
謝辞:
本研究はNICT委託研究209 (2018-2022年度)の一環として行ったものです。
ここに感謝申し上げます。
参考文献
Brookes, M. J., Leggett, J., Rea, M., Hill, R. M., Holmes, N., Boto, E., & Bowtell, R. (2022). Magnetoencephalography with optically pumped magnetometers (OPM-MEG): the next generation of functional neuroimaging. Trends in Neurosciences.
Takeda, Y., Hiroe, N., & Yamashita, O. (2021). Whole-brain propagating patterns in human resting-state brain activities. NeuroImage, Vol.245, p.118711
Suzuki, K., & Yamashita, O. (2021). MEG current source reconstruction using a meta-analysis fMRI prior. NeuroImage, 118034.
Takeda Y., Itahashi T., Sato M., Yamashita O. (2019), Estimating repetitive spatiotemporal patterns from many subjects’ resting-state fMRIs, NeuroImage, Vol 2-3, p. 116182,
Takeda Y., Suzuki K., Kawato M., Yamashita O. (2019), MEG Source Imaging and Group Analysis Using VBMEG, Frontiers in Neuroscience, 13, 241
Yanagisawa, T., Fukuma, R., Seymour, B., Tanaka, M., Yamashita, O., Hosomi, K., … & Saitoh, Y. (2022). Neurofeedback training without explicit phantom hand movements and hand-like visual feedback to modulate pain: A randomized crossover feasibility trial. The Journal of Pain, 23(12), 2080-2091.
Yanagisawa, T., Fukuma, R., Seymour, B., Tanaka, M., Hosomi, K., Yamashita, O., … & Saitoh, Y. (2020). BCI training to move a virtual hand reduces phantom limb pain: A randomized crossover trial. Neurology, 95(4), e417-e426