セッション2:工学
神経インタフェースデバイスの現状
鈴木 隆文 東京大学大学院 情報理工学系研究科
侵襲的脳計測手法を利用したBrain Machine Interfaceの開発に必要不可欠である神経インタフェース
(今回はハードである電極プローブをメインに)について、過去の研究と現状、将来についてお話されました。
従来の電極プローブの多くは、実験者による手作りで開発され、数個の細胞内記録、細胞外記録を行うことができます。
しかし、これらの電極プローブは、再現性、多チャンネル化、位置調節、長期的SN比悪化、生体適合性などの多くの問題があり、
これらの問題を解決するために電極プローブのチップ化や柔軟化が必要であると考えられるようになりました。
また、鈴木先生の研究例でご紹介頂いた電極プローブでは、プローブ基盤上に流路を統合して、薬液注入や再生軸索の誘導などに利用することが紹介されました。将来は、電極プローブの形状が糸のようなものや、無線による記録が考えられ、細胞認識による特定細胞の選択的接続などが考えられるそうです。
運動計画と運動指令の疎表現
池田 思朗 統計数理研究所
腕をある位置から他の位置に移動させるような到達運動を実現する運動計画に関する脳モデルについてお話いただきました。
ある目的を達成するための運動は一意でなく複数存在し、この不定性を解く必要があります。過去に、肘のトルク変化などの力学的変量の最小化を行うことで不定性を解き、
到達運動をうまく説明する研究がありましたが、池田先生は脳内における運動指令表現の最適化を行うことでこの不定性を解くアプローチをご紹介されました。
Olshausenによる視覚のV1基底表現の研究と比較しながら、筋への運動指令を複数の何らかの力学量(基底)の重み付き線形和で表現し、
目的の運動に関係ない基底の重みをゼロにする(疎表現)ことで、目的の運動を実現する運動指令を表現するモデルを提案されておりました。
実際の到達運動のシミュレーション実験も紹介されていました。
一次運動野の神経活動から腕の筋肉の活動と運動の推定
小池 康晴 東京工業大学 精密工学研究所
運動、力は、脳(第一次運動野)から筋肉へ運動指令が出されることで生じる。
筋肉の活動を電気活動として計測したものをEMG(筋電図)という。第一次運動野から計測した神経活動よりEMGを推定し、
推定されたEMGから目的の運動、力などを推定することでBrain Machine Interfaceを実現しようとするアプローチを小池先生はご紹介された。
ご講演では特に、運動の推定よりも難しい姿勢位置(posture)の推定のお話を中心にされました。ご自身の過去の研究として、
計測したEMGから運動や力を推定することで、車椅子を操縦したり、ロボットを動かしたりする例などをご紹介されました。また、
postureの推定として、サルの第一次運動野から得られた神経活動からEMGを線形回帰モデルで推定し、
推定されたEMGからpostureを三層ニューラルネットワークで推定する例もご紹介されました。
個性適応型情報処理を用いたロボットハンドの制御
横井 浩史 東京大学大学院 工学系研究科
手を動かすときや指を動かそうとしたときに生じるEMG(筋電図)を利用して、
精巧な手指の動きをロボットハンドなどの外部装置に実現させる研究についてお話しされました。
始めに、ロボットハンドの動作の自由度をワイヤー駆動によって実際の人間の手に近い動作を実現する例をご紹介されました。
次に、手首から先を失った被験者にそのロボットハンドを適用した研究例もご紹介されました。
被験者は、手首から上の腕に取り付けられたEMGセンサを使用して、ロボットハンドに開く、握る、
指を数本握るなどの10パターンの動作をトレーニングしロボットハンドを自分の意思で操作します。
トレーニング日数を重ねるごとにうまくロボットハンドを制御することが可能となりました。
この場合、被験者はロボットハンドの動作パターンに合うEMGパターンを学習したことになります。
それを確認するため、被験者さんのトレーニング前と後の脳活動をfunctional MRIで計測し、脳活動に学習の変化があったことも示されました。
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