本プロジェクトは、ムーンショット目標9「2050年までに、こころの安らぎや活力を増大することで、精神的に豊かで躍動的な社会を実現」に向けて、仏教に代表される東洋の人間観と脳科学の知見にもとづいて自分自身と向き合うことで、安らぎと活力を増大し、他者への慈しみを持てる社会の実現を目指すものです。
絶え間なく情報が行き交う現代社会では、自己の内面を見つめ、自分と向き合い、主体的に生きることそれ自体が、我々の課題になっています。もちろん、こころのあり方を把握しメンテナンスすることは、人間につきまとう普遍的な課題ですから、人類の歴史の中で様々な方法が生み出されてきました。東洋で培われてきた方法の一つに瞑想がありますが、個人差やこころそれ自体のとらえがたさゆえに、現時点では必ずしもすべての人に開かれた方法とはなっていませんでした。
そこでこのプロジェクトでは、こころの状態の遷移を脳ダイナミクスの観点から解明し、応用することで、この課題に取り組みます。第一に、大規模調査と小集団への詳細な調査を組みあわせたデータベースを作成し、こころの状態に関する個性のモデル化を試みます。第二に、脳ダイナミクスの遷移をリアルタイムで推定し、可視化する技術を開発します。そして第三に、これらの技術に裏打ちされた瞑想法の開発とアプリによる社会実装を目指します。これによってより多くの人に、自己の内面の把握とこころの状態遷移の制御を可能にします。
このプロジェクトは東洋思想に蓄積された膨大な知識を、精神科学に活用するための基盤になるとともに、こころの世界と物理の世界を脳科学的な技術で結びつけることで、人間とテクノロジーの新たな関係性を生み出すことを期待しています。
今水寛(プロジェクトマネージャー)
株式会社国際電気通信基礎技術研究所 脳情報通信総合研究所認知機構研究所・所長