自己主体感を生起させる身体化BMI開発
認知神経科学研究室(DCN)では,人間の知性と適応性を支える学習のメカニズムを解明する認知神経科学研究を行っています。即時的な学習のためには,フィードバックをメタ的に自己帰属させ,自己というシステムに組み込むことが重要であることがわかっています。しかし,従来のBMI(brain-machine-interface)ではこの自己帰属感(主体感)を十分に与えることはできず,結果として学習効果は限定されます。そこで私達は,運動学習で構築されてきた身体化の理論(人間が、外的な対象を自己の身体のように操作できるようになるメカニズム)を応用することで,自発的なオペラント学習を可能にするBMIシステムを開発し,ニューロフィードバック訓練へ応用することを目指します(図1)。
図1:運動学習による外的対象の自己身体化
主体感の創発による自己身体化のメカニズム解明
自分自身の身体行為,もしくはフィードバックされた脳活動をメタ的に俯瞰することによる脳内での学習効果について,非侵襲脳計測器(fMRI/EEG)を用いた検証実験を行います。特に,学習に必要な予測誤差をコードする指標の探索(脳波マイクロステート,fMRI機能結合,視線計測など)やそこへの介入効果(tES電気刺激など)を検討します。これにより,BMIニューロフィードバックを念頭においた,外的対象の身体化に必要な要件を特定します。
ローカルなマッパーBMIからグローバルなラッパーBMIへ
BMIによる学習効率を上げるためには,脳活動の適切な身体化による予測誤差の発生と,それを最小化できる自由度を与えるインターフェース開発が必要になります。そのためには,脳本来の固有ダイナミクスをリアルタイムにそのまま受け渡す仕組みを考える必要があります。そこで,EEGやfMRIで計測される全脳活動を包括するラッパーBMIを開発し,それを使ったニューロフィードバック訓練効果を検証します。
1.予測誤差による主体感変調の認知神経科学的メカニズム
学習にとって重要なパラメタである予測誤差を発生させる実験パラダイムを開発してきました(図2)。カーソルの運動制御時に,学習不可能な外乱(ここでは他者運動)をリアルタイムで混ぜ合わせることで,与える予測誤差の程度をコントロールします。被験者はこの操作の難しいカーソルを制御しようとすると,主観的な操作感(主体感の指標)が変調します。この際の脳活動を計測すると,特定の領域が重要であることが分かりました(図3)。さらにこれらの領域の活動を機能的に阻害することで,予測誤差に対するメタ的な感度(予測誤差-主体感相関)を変化させうることも検証を進めています。
図2:予測誤差を発生させる実験パラダイム
図3:予測誤差と主体感を時間的にコードする領域
2.主体感を与える身体化BMIとその効果
これまでのBMIシステムは,フィードバックに対する主体感を十分に与えられなかったため学習効率が悪く,長期間のトレーニングを必要としてきました。そこでまず,リアルタイム性を追求した可視化技術を開発することで,学習効率の良い「教師あり学習」化を進めてきました(図4)。さらに,視覚フィードバックを身体化することで,学習済みの身体制御の内部モデルを、脳状態を制御する内部モデルに転移学習できる可能性についても検証をしていきます(図5)。
図4:運動学習の理論をニューロフィードバックBMIへ応用
図5:身体化BMIによる学習効率の向上