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「脳の危機」

「脳の危機」【PDF版】



 『脳を読む』、『脳を繋ぐ』研究、さらにそれを取り巻く『脳と社会』の活動は、米国、欧州、日本で著しい進展を見せてきました。特に米国では、DARPA、 NIHの巨額な研究資金によって、幅広くラット、サルから人までを対象として大々的に研究が進められ、その成果が輩出しています。しかし、日本では、2001年度以降ライフサイエンス関係の予算が急激に増加しているにもかかわらず、脳関係予算が急激に減少し、脳科学の失速が懸念されます(添付参考資料『脳科学の危機』)。我が国には、『脳の世紀』で育まれた神経科学、脳機能計測、情報処理、先端医療、ロボットなどの研究分野で世界をリードする傑出した研究があります。脳研究をいっそう盛り上げ、この研究の重要性を国民にお知らせするとともに、有識者、マスコミ、政治家の方々の判断を助ける情報提供をする拠点として、『脳を活かす』研究会を発足させます。

 本研究会の第1の目的は、分野と所属機関の異なる研究者・技術者の相互理解と共同研究を促進し、研究の裾を広げ、若手研究者育成の場を作ることです。『脳を活かす』研究・技術開発では、分野と機関を超えた共同研究が不可欠です。神経生理学者、計算理論家、臨床医、脳計測技術者、コンピュータサイエンティスト、ロボット研究者、制御科学者、医用電子技術者、経済学者、企業、文筆家等々、様々な専門家が所属と分野の壁を乗り越えて、議論、研究、技術開発を積み重ねることから国際競争力のある研究が生まれます。欧米でも異分野の研究協力による融合的な研究は、研究施策の最重要課題となっています。欧米に比して分野と所属の壁が高いわが国においては焦眉の課題であることは言を待たないところであります。

  第2の目的は、『脳を活かす』研究・技術開発の最近の進展を広報し、脳科学の理解と支援をアッピールすることです。知と心の解明を進め、脳を知りたいという社会一般の切実な要求に応え、脳研究の推進とより良い社会の創造につなげたいと願っています。

 第3の目的は、専門的な観点から省庁の科学推進施策に対して資料を提供し、また提言をしていくことです。総合科学技術会議は、第3期基本計画作成の議論の中で、「脳や免疫系などの高次複雑制御機構の解明など生命の統合的理解」「情報科学との融合による、脳を含む生命システムのハードウエアとソフトウエアの解明」「こころの発達とその障害並びに意思伝達機構の解明」などをライフサイエンス分野の基礎・基盤研究にかかわる重要課題とし、さらに「ITやナノテクノロジー等の活用による融合領域・革新的医療技術(システムバイオロジー、脳情報学)」などを実用化・応用研究課題とし、また、「脳科学の進歩により、こころとからだの健康を保ち、自立しはつらつとした生活を実現する」ことを具体的成果目標にかかわる個別的成果目標の候補としていました。これは本研究会の設立趣旨に一致するものであります。

 第4の目的は、省庁横断的に、産官学の総力を結集して、『脳を活かす』研究を推進するために、省庁の施策の連携融合を助け、その企画調整を計ることです。『脳を活かす』研究には各省庁にまたがるものが数多くあり、省庁の研究資源の効果的な結合が求められます。例えばブレインマシンインタフェースの開発には、大学の研究者の動物実験を含んだ基礎的な研究、企業による新しい脳活動計測装置の開発、研究機関での大規模な実験、そしてベンチャー企業の創業が必要となります。またその応用として、locked in患者(意識はあるが随意筋麻痺のため意思表示できない患者.閉じこめ症候群)の救済、心の病の治療などには厚生労働省が関係し、コンピュータやゲーム機のインタフェース、ロボットの制御、あるいは脳活動計測装置の開発などについては経済産業省、お年寄りや体の不自由な方にICT(Information Communication Technology)ネットワーク利用を可能とし、従来のコミュニケーション技術を根底から変革する電気通信などには総務省、そして基礎研究と国民の心を豊かにする活動は主として文部科学省が関わることになるでしょう。

Last update: 2006.11.14

(C)2006 脳を活かす研究会