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セッション1:
経済学

セッション2:
遺伝学

セッション3:
マーケティング

セッション4:
脳と芸術

セッション5:
脳・心を読む方法

パネル討論・総括


2006年12月16日

討論者紹介 (敬称略)

司会:

坂井 克之(東京大学大学院 医学研究科)


パネリスト(五十音順):

飯高 哲也(名古屋大学大学院 医学研究科)
岩田 誠 (東京女子医科大学)
柿木 隆介(自然科学研究機構 生理学研究所)
神谷 之康(ATR 脳情報研究所)
西條 辰義(大阪大学 社会経済学研究所)
田中 沙織(カリフォルニア工科大・ATR脳情報研究所)
田村 馨 (九州大学 ユーザーサイエンス機構
堂目 卓生(大阪大学大学院 経済学研究科 )
松島 俊也(北海道大学大学院 理学研究院)
宮川 剛 (京都大学大学院 医学研究科)


坂井(司会):
この研究会の基本的なスタンスは、脳科学とその他の分野の異分野交流の場というものです。いろんな分野の研究者の人が集まって顔の見えるような状況でお話しを伺うということが私自身楽しいと思っており、皆さんもそう思って頂ければと思います。 それでは、講演された先生にこれから求められるものや展望をお話し頂ければと思います。 松島先生お願いします。

松島:
私の立場は端的に言うと、「野に置け前頭葉」です。脳の構築は進化の産物としてあるものになっていますが、どのような淘汰圧がどのように加わっているのか、これをニューロエコロジーと呼んでいます。しかし、これには最適化原理が通用しません。ダーウィン適応度がどこまでカッティングエッジを持つのかということを調べていきたいと思います。そして 僕としては、厳格な行動脳連関を圧倒的に示して欲しいと常に感じております。

坂井(司会):
では次、堂目先生お願いします。昔の時代からモラルコグニションがあったんだなあと感じてます。

堂目:
私がお話ししたのは、昔の人がこういうビジョンを持っていて、これからの研究に対しての提案でしかないわけですが、アダムスミスが提唱した自由にやらせるということの意味がおかしいと思い、お話しいたしました。脳科学に関しては、他者の立場に自分をどう置いているのかは分かってきているようですが、成長とともに公平な観察者がどう変化していくか、や他人との関係を考慮して行動する場合の脳活動も面白いかなと思います。そして、人間がとる逸脱行為に何らかの意味があるのかということに最も関心がありまして、これが紛争解決や援助の仕方に関係してくるだろうと思っています。

坂井(司会):
ありがとうございました。それでは関西弁がパワフルだった西條先生お願いします。

西條:
経済学者は市場とは何か?ということを調べていますが、私は感情を起こさせない状況を市場が作り、それを支えるのがsympathy(共感)なのかなと思っています。例えば、ホリエモンという人が賞賛を受けていたけれども、インサイダー取引だとわかった瞬間に同感が全く失われてしまったように。 そうすると感情が起こらない制度をつくるのがいいのかなと感じていて、感情を制御できる制度というのが脳科学をもってどうなるのかなと思っています。

坂井(司会):
では、次に田中沙織さんお願いします。田中さんにはニューロエコノミクスの最先端の知見を出して頂きました。

田中:
日本でも最近ニューロエコノミクスという言葉が使われ始めましたが、まだどこの脳がどういうことをしているのかのレベルにいます。実際にやりたいのは、人間に基づくモデルの構築であり、新しいモデルをどう作っていくのかが面白いところだと思います。自分の研究の方向性としてはもうちょっと細かい生物的にちゃんとしたところを知りたいと思います。

坂井(司会):
そうですね。そのために経済学と脳科学がお互いにインタラクトしていくといいのではないでしょうか。それでは次にノックアウトマウスを用いた研究成果をお話ししていただいた宮川先生お願いします。

宮川:
脳を読むという観点から展望を述べますと、遺伝子発現データからマウスの行動データをレトロスペクティブに読むということが面白いと思い、現在それを始めています。しかし、行動と相関するものは結構出てくるのですが、違うマウスの行動を予測するのは難しいところです。 そしてそれがin vivoでできるようになると、いつかヒトで使うこともできると思います。それにはSNPsチップというものを使います。もしかするとチップのデータで人の行動や疾患が予測できるかもしれません。まずマウスのほうで絞って予測していきたいと思います。そうなると究極の占いのようになりますが、倫理的問題も議論する必要があります。

坂井(司会):
なんだかどんどん危ない世界になってきている印象ですが、ヒトを対象として情動に特有の研究を行っている飯高先生お願いします。

飯高:
社会現象として90年代以降、皆ストレスを感じています。脳科学的にどうやって応えていくかというのが重要な方向だと思います。ストレス、情動、うつ、不安などを脳の活動としてどうやって捉えていくかについて、健常者を対象として扁桃体や内側前頭前野などの神経サーキットが関与しており、さらに個人のばらつきに意味があって、ひいてはストレスに対する脆弱性につながることが少しずつわかってきました。それらを補充する形で投薬前後の活動をみるファーマロジカルfMRIなどが治療的に考えられると思います。ただ、アメリカのNIHでは莫大な数の被験者を相手に脳活動と遺伝データを調べることが既に予算化されているとのことですので、日本は別の方法を考えた方がいいかなと思います。

坂井(司会):
次は田村先生で、先生のお話しで、マーケティングというのは認知心理学的アプローチで、我々と同じことをやっているんだなあと認識しました。

田村:
人間はどうしても、つじつまを合わせて話してしまうものです。そのため我々は大変な思いをしてきました。そういう意味で脳に期待するところはあります。また、マーケティングには、アーティストかマーケット全体、どちらが大事かという問題があります。我々が見えていないものが見えているのがアーティストで、経営者も同じです。アメリカの経営者は評価のわからないアートに興味を持つ人が多いです。彼らはアートにも共通する時代を見る目を持っていると言えます。こういったアーティスティックなマーケータや消費者の脳を読むというプロジェクトをやってくれたら今日来た意味があったかなと思います。

坂井(司会):
アートという言葉が出ましたが、次は岩田先生お願いします。

岩田:
30年くらい前に脳のシンポジウムというものがあり、そこで豊倉康夫先生が、これからすべての学問が脳を中心に語られるようになるだろうとおっしゃいました。今、まさにそんな時代になりつつあります。新しいものは必ず辺境から起こるので、それを探るような集まりは大事だと思います。 今回の嘘つき脳芸術脳というのはユートピアというものが自分の脳の中にできる芸術作品そのものなのではないかと考えたところから来ています。私が心配しているのは今の子供の教育で、嘘つき脳の教育ということが全く考えられていません。想像力を豊かにして創造できる教育を行う、そういうことを真剣に考えなければいけないと思います。アメリカですごいと思うのは、とてもつまらないことも面白いと褒めることで、そのようにポジティブに評価するシステムが日本には少ないと思っています。

坂井(司会):
ありがとうございました。では次は、デコーディングによるありとあらゆる可能性を指摘して頂いた神谷さん、お願いします。

神谷:
他の分野の方々に期待することを簡単に言うと、ラベルください、ということです。ただし、単にデータをくれるのではなく、その背後に潜む変数をいろんな研究から見つけて現象を整理した上でラベルとしてもらえると我々は何かを見つけれるかもしれません。人間観というものは歴史的に作りだされてきたもので、倫理的に考える必要があると思われているマインドリーディングも中国人にとっては何の問題でもなくなる、というような例があります。脳を見ることで既存の人間観を疑い、その背後にあるものを見たいと思っています。

坂井(司会):
ありがとうございました。これまでは用語やデータの解釈がわからないと言っていた分野の人も皆、メカニズムに関して知りたい、ということは共通しているだと感じました。 それでは何か会場からありますでしょうか?

会場から:
いろんなお話の中で共通して浮かんだのが、すごく理解が難しい問題にあたったときに、妙なロジックに惑わされているのかなと思います。それで結局、ロジックがいいのか、それとも、例えば情動とかがいいのか、どちらなのでしょうか?

会場から:
僕自身は情動はポジティブにもネガティブにも働き、両者がせめぎ合いをしているという印象で、うまく生きていくために生まれた進化のシステムであると思うので悪い訳ではないと思います。 ただしどうやってるのかは分かりません。いろいろなアプローチを統合する人間の理性や情動のメカニズムの解明に近いうちに貢献できたらいいなと思います。

坂井(司会):
結局のところ、感情と理性、個人と社会ということかもしれませんが、実際は錯綜としていてそんなに簡単に割り切れるものではないのでしょう。

神谷:
同じことはアルゴリズムかヒューリスティクスの違いという言い方ができると思うんです。アルゴリズムはどのような入力にも正しい出力を出す手続きのことで、ヒューリスティクスとは常に正しくはなくても多くの場合正しい出力を与える経験則のようなものとすると、感情というのも、それに従っていれば多くの場合適切な行動ができるようなある種とヒューリスティクスと見なすことができると思います。

堂目:
人間は世話をしあうというのが根本にあると思います。しかし、仁愛は遠くに及ばず、マーケットは顔が見えません。そこで奪うという行為によって無理矢理世話をしてもらうのではなく、共感を基礎として世話を交換するという方法をとるようになりました。これがマーケットで、市場はロジックによってというよりも、感情によって成り立っているという事だと思います。 あと、岩田先生が教育の話をされましたが、スミスは本来、愛国心は持てないと言っていて、それが18世紀のフランスやイギリスの国民的偏見や国民的嫌悪に繋がったとされています。このように無理矢理愛国心なんかを刷り込ませようとするのが教育基本法の間違いだと私は思っています。

岩田:
私が言いたかったのも実は同じようなことで、仮想現実であるものが現実となっていることが怖い、それがあたかも本当の仕組みだと思うことがおかしい、ということです。

西條:
近年の経済学は人間を無視したモデルを作り過ぎてきてたので、人間のモデルが欲しいと思っていましたが、アダムスミスの話を聞くとそうでもないんだと思いました。また、私の感想ですが、脳関係の研究者は経済学と違って夢を語るので、これから伸びようとい感覚があり、とてもうらやましいなあと思いました。

会場から:
とにかくいろんなところから人間全体を対象にしていって、違う分野でもお互いの言葉が揃っていけばいいと思っていましたが、マーケティングやエコノミクスは脳科学と非常に相性がよいと感じました。こらからもこういう会を通じて周辺のいろんなフィールドからインタラクトして、辺境からアイデアを得られたらよいなと思います。

坂井(司会):
話し合わなければわからなかったものは、面と向かい合って問いかけを発することから始まるもので、すぐに実を結ぶものではなくても、何らかの形えそういう場所を作っていきたいと考えています。それでは皆様どうもありがとうございました。


Last update: 2007.02.08

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