セッション5:脳・心を読む方法論
脳から心を読む方法
神谷 之康 ATR脳情報研究所
神谷先生からは、心を読むという方法が、どのような可能性を持つのかということについて話していただきました。
脳から心を読むことにより、経済行動の予測や商品開発への利用、異常行動の予測など、ビジネスやマーケティング、医療など幅広い応用が考えられるそうです。もちろん、その一方でその技術を悪用する可能性も存在します。
ここで、数あるヒトの心理状態を表す手法の中で、なぜ脳から心を読む必要があるかという疑問が生じます。もちろん、その一方でその技術を悪用する可能性も存在します。しかし、アンケートやインタビューは意識や内観にフィルタされており、意識には上らない脳の状態が行動を決定している可能性もあります。脳には複数の認知意思決定システムが存在するかもしれません。そのため、脳から心を読むことの意義があるそうです。
そして、現在はモデルをあてはめて仮説検定をする従来の神経科学から、データから未知の変数を予測し、予測の精度と効率が評価基準になる新しい予測的神経科学が行われるようになっています。
神谷先生が行っているデコーディングという手法はその1つです。デコーディングには脳活動を計測してラベルをつけ、ラベルを予測するモデル(デコーダ)を構築し、新しい脳活動のラベルを正確に予測できるかを検証する、という3つのステップがあります。
この方法により、相対的に客観的な方法から作ったデコーダから主観的な心理状態を読むマインドリーディングが可能となります。近い将来、ウェアラブル技術と組み合わせて日常生活の脳活動をラベルづけしてマーケティングに活かすということもあり得る話だそうです。
このような神経科学の新しい考え方から、神経科学の分野はプラットホーム(脳計測)を提供し、人文社会科学の分野からコンテンツ(ラベル)を提供するという関係を築くことができると考えられます。そのような神経科学技術が「人」や「社会」のあり方を変える可能性もあります。そのため、神経科学の応用の是非を人文社会科学的観点から議論することも重要であるということです。
神谷之康先生のHP http://www.cns.atr.jp/~kmtn/index.html
一般講演会講義録 http://www.cns.atr.jp/nou-ikasu/transcript/200604/kamitani/index.html
各種ニューロイメージング手法による痛覚認知機構の解明
柿木 隆介 自然科学研究機構 生理学研究所
柿木先生は、日本ではあまり研究されていない痛みの認知機能についてお話ししてくださいました。
まず、痛みには2種類あり、Aδ線維で感じるfirst painというチクッとした痛みと、無髄C線維で感じるsecond painという鈍い痛みや内臓の痛みがあるそうです。
近年、新しい技術によって分けることができなかった痛みを詳しく調べることができるようになりました。そこで、表皮に存在する痛覚刺激受容だけに電気を流す表皮内電気刺激法という手法を使い、first pain(Aδ線維)の知覚について脳磁図(MEG)を使って調べました。
その結果、まず第一次体性感覚野(S1)、第二次体性感覚野(S2)、島皮質前部(insula)などのいくつかの部分が活動しました。その活動は、対側S1、対側島皮質および対側S2、同側島皮質および同側S2、扁桃体、帯状回という時間順序で変化していきました。また、低出力CO2レーザーを使って無髄C線維における痛み知覚(second pain)も調べたところ、同様にS1やS2、帯状回に活動が認められました。
これらの結果をさらに詳しく調べるために機能的核磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、first painとsecond painに特有の脳領域を調べました。その結果、痛みの種類を識別するとされる視床、S1、S2などのlateral systemと、島皮質や扁桃体などの痛みの意味を識別するとされるmedial systemを痛み知覚に使用していることを確認でき、更に、前帯状回の腹側前部や島皮質前部がsecond painを与えたときに有意に活動しました。
これらの領域は情動に重要な部位であり、first painが侵害刺激に対する安全面での機能を持つのに対し、second painは情動と深く関係があると考えられるそうです。また、痛みの画像を見せたときにも帯状e回などに活動が見られたことから、medial systemによって心の痛みを感じるのではないかとされています。
このように痛み知覚の機構は詳細に調べられており、アメリカも2001年からは「痛みの10年」として研究に力を入れているそうです。
柿木隆介先生の研究室のHP http://www.nips.ac.jp/smf/
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