セッション2:遺伝学
遺伝子改変マウスの表現型解析を起点とした精神疾患の研究
宮川 剛 京都大学大学院 医学研究科
宮川先生は遺伝子と神経疾患の関連についてご講演されました。
宮川先生は、遺伝子ターゲティングという技術を用いてマウスの遺伝子を特異的に変化させて、その遺伝子が行動にどのような影響を及ぼすかを調べています。先行研究によりカルシニューリンという物質が統合失調症の発病と関連があるということがわかってるそうです。
しかし、どのようにカルシニューリンが統合失調症の発症に関わってくるかはわかっていません。そこで宮川先生たちはカルシニューリンが関連している様々な分子を改変して、マウスの行動を調べました。とくにalpha-CaMK2という分子に注目して、その遺伝子発現が押さえられたマウスの行動を詳しく見ました。このマウスは兄弟を次々と殺し、不規則な行動を示すそうです。気分の波のようなものがあるのではないかとのことでした。
次に、そのマウスの脳で何がおこっているのかを調べてみると、海馬の歯状回という場所で異常が見られました。歯状回という場所は新しく神経が生まれている場所です。さらに詳しい解析を行ってみると、本来は新しく生まれた神経細胞は成熟するはずなのですが未成熟なままだったそうです。このマウスは成体脳の中に未成熟脳を持つために異常な行動を示すのではないかとのことでした。
人についてもマウスと同じような技術で神経疾患を調べられるのではないかということで、人の遺伝子のデータベースから10個の遺伝子を選んできて統計学的に人を分類したところ、ある程度、健常者と神経疾患者を分類できました。神経疾患に関わる特異的な物質を見つけられればPETなどを用いて人の脳を読むことが可能になるそうです。
宮川剛先生のHP http://behav.hmro.med.kyoto-u.ac.jp/
情動とストレス脆弱性を探る脳画像研究-遺伝的多型性を含めて-
飯高 哲也 名古屋大学大学院 医学研究科
飯高先生は情動やストレスに関わる脳活動についてご講演されました。
情動を脳科学的解明することで”うつ”に成りやすい状況を改善できるのではないかということで研究を進めているそうです。情動に関する脳研究では、一般的には情動を換気させるような音楽や画像を被験者に提示してそのときの脳活動を調べます。
飯高先生は、怒りや嫌悪、笑いなどの表情に対する情動反応が統合失調症患者と健常者では異なることから、怒りや嫌悪、笑いなどの顔写真を統合失調症患者と健常者に見せ、そのときの脳活動の違いfMRIを用いて調べました。その結果、右扁桃体で統合失調症患者でより高い活動を示したそうです。
さらに、健常者の脳活動I計測と遺伝子解析を行ったところ、セロトニン受容体の遺伝子多型が扁桃体の活動に関連していることがわかったそうです。
また、前頭葉と扁桃体の相互作用をみるためにPETを用いた実験も行いました。被験者に情動を換起する視覚刺激を提示し、生じた情動を受け入れてもらったり、抑制してもらったりしたそうです。
その結果、情動を受け入れた場合では扁桃体の方が活動し、抑制した場合には前頭葉の方が活動したそうです。また扁桃体の一部が広がっている人のほうが鬱になりやすいということもわかったそうです。遺伝的、環境的な要因が脳に働いてうつ状態になったり、精神神経疾患が発病したりするのではないかとのことでした。
名古屋大学精神科のHP http://www.med.nagoya-u.ac.jp/seisin/
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